【下巻】Valkyrie衣装展 in 鳩山会館

【下巻】Valkyrie衣装展 in 鳩山会館

傑作のフィナーレ、そして原点へ

鳩山会館を巡る旅も、いよいよ最終章。 Valkyrieの進化を辿ってきた私たちは、展示の終盤で、彼らが辿り着いた「現在の姿」、そして全ての始まりである「原点」と対峙することになります。
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絢爛な夢の回廊を抜け、ふと現実の静寂に立ち返る瞬間。 誰もが、この美しい舞台の「終幕」を予感していました。
しかし、私たちの耳に届いたのは、別れを告げる言葉ではありません。 それは、終わりを始まりへと変えるための、宗、ひいてはValkyrieからの予期せぬ「問いかけ」でした。

No.9 幸福論衣装 ── 「ヴァルサイユ宮殿」と、刻まれた二人の時間

No.8までの重厚な色使いから一転、目の前がパッと明るくなるような「白」の衝撃。 白地にパステルブルーのファー、そして真紅の薔薇があしらわれたこの衣装は、『幸福論』の衣装です。
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そのあまりの煌びやかさに見惚れていると、ヘッドホンからはみかの楽しげな(そして少し焦ったような)声が聞こえてきました。
​「この衣装は、新曲『幸福論』の衣装やね。・・・お師さんが『ヴァルサイユ宮殿』を作ろうとしてな……」​
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まさかの「ヴァルサイユ宮殿」。 ヴェルサイユ宮殿とValkyrieを掛けた、みかなりの造語だったようですが、宗に詰め寄られてタジタジになる様子に、会場の空気が一気に和みます。
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宗によれば、当初本当に宮殿のセットを作ろうとして予算不足で断念したとのこと。 しかし、その予算の都合が巡り巡ってこの「衣装展」の開催に繋がったのだとしたら、全ては運命の粋な計らいなのかもしれません。
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そして何より注目すべきは、宗のこの言葉です。
​「この衣装の大半は僕の手によるものだが、時計の装飾は影片の手製だよ。​ ​互いに培ってきたものを組み合わせ、それぞれの個性をどう活かすか、近頃は考えているからね」​
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胸元で静かに時を刻む時計の装飾。それは、みかが作ったものでした。 かつては「師の作品」を着せられるだけだった彼が、今は​​「共作者」として宗の作品の中に溶け込んでいる。​ 「じっくりと見るがいい」と誇らしげに語る宗の声は、衣装の美しさだけでなく、愛弟子の成長をも自慢しているように聞こえました。

No.10 新衣装 ── 問いかけられる「赤」の真実と、コルセットの秘密

展示のトリ前を飾るのは、現在の彼らが纏っている「新ユニット衣装」。 私たちが今、最も目にすることの多い、Valkyrieの「正装」です。
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見慣れた衣装ですが、音声ガイドで語られたのは、私たちの知らない「舞台裏」のルーティンでした。
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​「俺、このコルセットが好きやねん。毎回お師さんに着付けてもらうんやけど、キュッと締められると気が引き締まるんよ」​
​「手間だけで言えば確かに面倒だが、僕が君のコルセットを締めるのには理由があるのだよ。・・・正解は、君の体型を確認するためだよ」​
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毎回、宗の手によって締められるコルセット。 それは単なる着付けではなく、芸術家として「体型が変わっていないか」を確認する、厳格なメンテナンスの時間でもありました。
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​「面倒やったら自分でやるよ?」​​と言うみかに、​​「ノン!」​​と即答する宗。 その一瞬のやり取りに、彼らの舞台に懸けるプロ意識と、師弟ならではの濃密な信頼関係が垣間見えます。
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そして宗は、私たちに一つの問いを投げかけます。​
​「以前より赤い面積を増やしたのは意図があってね。・・・何かは、我々を見てきた君が考えてみたまえ」​
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かつての旧Valkyrie時代、彼らの色は「黒」をメインとし、その中に「赤」をさすような衣装でした。 活動停滞期や二人での再始動期を経て、今ふたたび、彼らは鮮烈な「赤」を全身に纏っています。 その答えは、明言されません。
一般的には、みかという「器」が成長し、宗と対等に渡り合えるようになったことで、​​二人分の情熱(赤)が溢れ出している証​​、あるいは再び帝王として君臨する「誇り」の色と捉えられるでしょう。
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しかし、かつて宗が語った言葉を思い出すと、もう一つの解釈が浮かび上がります。 彼は、「うろこの家」でのイベントにおいて​​「色が見るものに与える印象は非常に重要だ」​​と語っていました。
その美学に基づけば、旧Valkyrieの​​「黒」​​が象徴していたのは、人形師と人形による​​「静謐で無機質な美」​​、つまり時が止まった永遠性でした。 対して、今のValkyrieの新衣装で増えた​​「赤」​​は、​​血潮や鼓動を感じさせる「動」​​の色です。
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文学的・歴史的に見ても、「赤と黒(Le Rouge et le Noir)」の対比は、しばしば「情熱」と「制約」、「軍人(戦う者)」と「聖職者(祈る者)」の対比として語られます。
地下(隔絶された空間)で祈るように芸術を磨いていた二人が、今、戦う者として地上に降り立った。 宗が示したかったのは、Valkyrieが「静止した絵画」から、自らの足で動き、熱を発する​​「生命ある芸術」​​へと進化したという宣言なのかもしれません。
今のValkyrieだからこそ着こなせる鮮烈な『赤』が、そこにはありました。

No.11 旧Valkyrie衣装 ── 悲劇は「幸福」の礎となる

新衣装で「現在」の到達点を見た私たちを、最後に待っていたのは「過去」でした。 全ての始まり。No.11、旧Valkyrie衣装。
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ここで宗の口から語られたのは、かつてそこにいた「もう一人」の存在です。
​「ここにあるのは僕と影片、それから……今はRa​*​bitsに所属している仁兎の衣装だ。かつてはこの三人で活動していた」​
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かつて彼らの中心にいた「なずな」の名前が、この場所で、宗の口から穏やかに語られたこと。 それだけで、胸がいっぱいになりました。
No.1(七夕祭)のガイドでは「苦い記憶」として語られた過去。 しかし、全ての展示を経た今、宗はその過去をこう定義し直します。
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​「負の感情というのは厄介で、苦い出来事ほど記憶に残りやすい。​ ​だが、それ以上の幸福がそこにあった。​ ​無からは何も生まれない。悲劇があればこその人生なのだよ」​
悲劇も、別れも、痛みも。その全てが感性を育て、今のValkyrieの芸術を花開かせるための糧となった。 この「旧衣装」は、単なる過去の遺物ではありません。 現在の彼らを支える、強くて美しい「根っこ」そのものなのです。
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幕間:アトリエの息吹 ── 1階・パターン展示

煌びやかな衣装の回覧を終え、1階へと降りると、そこには意外な展示が待っていました。 装飾の一切ない、生成りの布と、そこに引かれた無数の黒い線。 それは、衣装が生まれる前の「設計図」とも言える、トワル(パターン)です。
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私は服飾の専門知識など持ち合わせてはいませんが、この無垢な布地を前にして、2階の展示とはまた違う震えを覚えました。 まるで、彼らの聖域である「アトリエ」の一端を、こっそりと覗き見てしまったような感覚。
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「神は細部に宿る」と言いますが、美しいシルエットを生み出すための試行錯誤、ミリ単位の線の修正……そんな、完成品からは見えない「生みの苦しみ」と「情熱」が、この白い布には生々しく刻まれているように感じました。
あの圧倒的な芸術は、魔法のように湧いて出たものではなく、こうした地道で緻密な作業の積み重ねの上に成り立っているのだと、改めて突きつけられた気がします。

エピローグ:託された「創造の種」

全ての衣装を見終わり、余韻に浸ろうとしたその時。 ヘッドホンから流れたのは、展示の終了を告げるアナウンスではなく、宗からの新たな「指令」でした。
​「さて、これで衣装展は終わりだが……諸君、本当に終わりでいいのかね?」​
​「鑑賞するだけで満足してしまっていいのか、というね」​
彼は問います。 この会場で何を感じたか。その違いこそが美であり、私たち自身の中で再構築される素材なのだと。
​「形は問わない。絵でも、文章でも、衣装でも。紙にしたためるだけでも構わない。​ ​思考を止めず、ここから何かを生み出したまえ」​
それは、芸術家・斎宮宗からの「宿題」でした。 ただ消費して終わるのではなく、受けた刺激を糧に、あなた自身の「芸術」を生み出せと。 「芸術って言うと難しそう」と笑うみかも、こう付け加えてくれました。 ​「例えば、今日の思い出を誰かに話すだけでも、それは立派な物語や」​
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結びに代えて ── 私の「物語」

私が今、こうしてパソコンに向かい、拙い言葉を尽くしてこの記事を書いている理由。 それは他でもない、彼らから託された「宿題」への、私なりの回答です。
鳩山会館という美しい器の中で見た、Valkyrieという芸術家の生き様。 その衝撃と感動を、自分の中だけで終わらせたくなかった。 この物語を語り継ぐこともまた、彼らが言う「芸術の連鎖」の一つだと信じて。
解禁日以降、きっと世界中でたくさんの「Valkyrieの物語(レポートやファンアート)」が生まれることでしょう。 宗は言いました。 ​「芸術の数だけ、世界は美しく輝くのだからね」​
この記事が、世界を輝かせる無数の小さな光のひとつとなり、 画面の前のあなたにとっての「糧」となることを願って。
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素晴らしい展示、そして人生を変えるような言葉を、本当にありがとうございました!