
これまで、数々のカフェやホテルラウンジで自分なりの推し活を満喫してきた私ですが……先日、ついに初めて心が折れる経験をしました。
誰かに直接怒られたり、トラブルになったりしたわけではありません。
ただ、世間の目と自分の趣味のギャップに少しだけ気付かされて、センチメンタルになった夜のお話。
ただ、世間の目と自分の趣味のギャップに少しだけ気付かされて、センチメンタルになった夜のお話。
ちょっとした読み物として、お楽しみいただければ幸いです。
突然の「もらい事故」と冷えていく心臓
その日は仕事帰りに、来月末で閉店してしまう日本橋三越にある「ザ ティールームス」へ、一人でアフタヌーンティーに訪れていました。
クラシカルで上品な空間ですが、店内は適度に賑やかで、肩肘張らずに過ごせる素敵な雰囲気。
オーダーしたメロンのアフタヌーンティーは、一人分のために綺麗に盛りつけされた美しいティースタンド。
オーダーしたメロンのアフタヌーンティーは、一人分のために綺麗に盛りつけされた美しいティースタンド。
私はいつものように、プレートからスイーツを少しだけ移動させ、ぬいをテーブルに配置して、何枚かシャッターを切った後、さらに可愛い構図を、と考えている最中でした。

その瞬間、向かいのテーブルから4人組のマダムたちの世間話が耳に飛び込んできたのです。
「そういえば私の知り合いにも、旅先やレストランにぬいぐるみを連れて行って撮影する人がいてね……」
そのテーマが出た瞬間、私の背筋はサッと凍りつきました。
――「あ、これはまずいかもしれない」。
――「あ、これはまずいかもしれない」。
「それって、その人が撮り終わるまで待っていなきゃいけないってこと?」
「ずっと撮られたら迷惑よね」
「大人にもなってね」
「皮膚科の待合室とかにあるぬいぐるみもそうだけど、あれって病気の皮膚に触れたぬいぐるみでしょ?なんで置くのか理解できないわ」
「ぬいぐるみを置くって衛生的にどうなの?」
「ずっと撮られたら迷惑よね」
「大人にもなってね」
「皮膚科の待合室とかにあるぬいぐるみもそうだけど、あれって病気の皮膚に触れたぬいぐるみでしょ?なんで置くのか理解できないわ」
「ぬいぐるみを置くって衛生的にどうなの?」
賑やかなお店の中で、その言葉だけが浮き上がって、はっきりと聞こえるような感覚。
自分に直接向けられた言葉ではないと分かっていても、少し汗ばむような、生々しい動悸が止まりません。
自分に直接向けられた言葉ではないと分かっていても、少し汗ばむような、生々しい動悸が止まりません。
でも、私の頭の中はどこか異様に冷静でした。
「もし今、直接何かを言われてハッとしたとしても、手元を狂わせてこの子たちを落としたり、クリームで汚したりすることだけはしない。それだけは…」
「もし今、直接何かを言われてハッとしたとしても、手元を狂わせてこの子たちを落としたり、クリームで汚したりすることだけはしない。それだけは…」
指先は冷え切り、胸はチクチクと痛んでいました。
それでも、「今日のためにドレスアップしたこの可愛い瞬間は、どうしても残したい」と、心に鞭を打って、震えそうになる手でシャッターを切り続けたのです。
それでも、「今日のためにドレスアップしたこの可愛い瞬間は、どうしても残したい」と、心に鞭を打って、震えそうになる手でシャッターを切り続けたのです。

消し忘れた照明と、手付かずのスイーツ
ティールーム自体は賑やかで、マダムたちも私を責めるように睨みつけてきたわけではなく、本当にただの「話題の一つ」として話していただけでした。話の内容だって、尤もだと思います。
それでも、直接的ではないにせよ初めて浴びた非難の言葉は、私の心を折るには十分すぎるほどの威力を持っていました。
目の前には、今日のためにとびきり可愛くしてきた二人。
『あんな風に言われちゃうような存在じゃないのに。こんなに可愛いのに。ごめんね…』
いたたまれなくなった私は、予定していた構図を撮り切るのとほぼ同時に、逃げるように彼らを鞄にしまいました。
しばらくは、全く食欲が湧きませんでした。 テーブルの上には、二人を可愛く撮るために美しく配置したティーセットや、飴がけできらきらと輝くスイーツだけがポツンと広がり、主役の二人はもういません。
ふと手元を見ると、ぬい撮り用の小さな照明が、電源も切られないままテーブルに伏せられて光を漏らしていました。
無意識のうちにそんな行動をとっていた自分のショックの大きさに、後になって気付かされました。
無意識のうちにそんな行動をとっていた自分のショックの大きさに、後になって気付かされました。
綺麗に並んだスイーツたちは手付かずのまま。「もう、このまま何も食べずに帰ろうかな……」と、冷えていく紅茶をただ見つめていました。

心を溶かした温かい接客と、現金な自分
そんな私を現実に引き戻してくれたのは、ちょうど私の母くらいの年代の方でしょうか、店員さんの、穏やかな笑顔ととても優しい声でした。
「お飲み物は、何かお飲み替えなさいますか?」
もちろん彼女は、私が傷ついていたことなんて知りません。
ただ純粋な、ホスピタリティに溢れた気遣い。その温かい声色に触れた瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れ、ほんの少しだけ涙腺が緩んで思わず鼻をすすってしまいました。
ただ純粋な、ホスピタリティに溢れた気遣い。その温かい声色に触れた瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れ、ほんの少しだけ涙腺が緩んで思わず鼻をすすってしまいました。
もしこの時、冷たい接客をされていたら、おかわりの紅茶を聞きに来てくれなかったら、私は間違いなくそのままお店を出ていたと思います。
「では、…マロンティーを……」
うつ向いて震え声で、完全に不審者な私のもとに届けられた、温かいマロンティー。
漂う甘く優しい香りに癒やされながら、全くの手つかずで放置していた、メロンのグラススイーツをスプーンで掬って一口。
漂う甘く優しい香りに癒やされながら、全くの手つかずで放置していた、メロンのグラススイーツをスプーンで掬って一口。
―― ・・・美味しい。
瑞々しい果汁が口いっぱいに広がり、クリームと溶け合う甘さにまた少し泣きそうになりながらも、「やっぱり、全部食べてから帰ろっかな!」と、私の中の『現金な自分』が目を覚ましたのです。
ショックで結構な時間放置してしまったにもかかわらず、人気メニューのスコーンはバターたっぷりで絶品。クロテッドクリームといちごジャムと一緒に食べると口福が広がります。
ラズベリージャムがサンドされた、英国定番のヴィクトリアケーキも驚くほどしっとりしていて、一口食べるごとに元気がチャージされていくのが分かりました。
ラズベリージャムがサンドされた、英国定番のヴィクトリアケーキも驚くほどしっとりしていて、一口食べるごとに元気がチャージされていくのが分かりました。
結局、あんなに凹んで今すぐ帰ろうとしていたくせに、飲み物を4回も飲み替えさせていただき、閉店間際までしっかりと味わい尽くしてしまいました。

愛しの『ちいさないのち』たちと思い出を
今日は英国風のティールームということで、あんスタの舞珠君とチトセ君の二人には、ブリティッシュなチェックのサロペットでおめかしをしてもらっていました。
琥珀色の瞳とピンクの髪が愛らしい舞珠君には、マスタードイエローのチェックにピンクのリボンを。
ネイビーの髪が美しいチトセ君には、同系色のネイビーに抜群の差し色となるレッドのリボンをあしらわれたお洋服を。
どちらも素晴らしい作家様に、作っていただいたものです。
ネイビーの髪が美しいチトセ君には、同系色のネイビーに抜群の差し色となるレッドのリボンをあしらわれたお洋服を。
どちらも素晴らしい作家様に、作っていただいたものです。
だいぶ気持ちが落ち着いてから、温かいコーヒーと一緒に撮った一枚。
自分の心持ちのせいでしょうか、不思議なことに、ファインダー越しの二人が少し悲しそうな、それでいて私を一生懸命励ましてくれているようなお顔に見えました。「…嫌な思いをさせちゃってごめんね」と、また少し胸がギュッと締め付けられました。
自分の心持ちのせいでしょうか、不思議なことに、ファインダー越しの二人が少し悲しそうな、それでいて私を一生懸命励ましてくれているようなお顔に見えました。「…嫌な思いをさせちゃってごめんね」と、また少し胸がギュッと締め付けられました。
でも、最後の最後に素敵で、ちょっと笑える奇跡が待っていたのです。

ラストオーダーギリギリで頼んだ「フルーツカクテル」というハーブティー。
イエロー系のオーソドックスなカラーを想像していましたが、テーブルに運ばれてきたその色は、なんと鮮やかな赤色でした。
イエロー系のオーソドックスなカラーを想像していましたが、テーブルに運ばれてきたその色は、なんと鮮やかな赤色でした。
今日はお留守番している望見さんを彷彿とさせるカラー。
普段なら、彼と一緒に撮るために、メニューから「ローズヒップ」や「ベリー」の言葉を意図的に探してオーダーするほど、私にとっては特別で、お馴染みの色。
普段なら、彼と一緒に撮るために、メニューから「ローズヒップ」や「ベリー」の言葉を意図的に探してオーダーするほど、私にとっては特別で、お馴染みの色。
それを見た瞬間、私は思わずふふっと笑ってしまいました。
――「次に来る時は、望見さんも連れてこなきゃね」
そう自然と考えている自分に気がついたからです。
――「次に来る時は、望見さんも連れてこなきゃね」
そう自然と考えている自分に気がついたからです。

あんなに心が折れかけたのに、ぬい撮りへの愛はちっとも消えていませんでした。
大好きな趣味を手放さずに済んだことが、ただただ嬉しかったのです。
大好きな趣味を手放さずに済んだことが、ただただ嬉しかったのです。
温かくて、フルーツの甘い香りが薫るお茶に元気をもらいながら、チトセ君と一緒にパシャリと一枚。
心なしか、ファインダー越しのチトセ君の顔も明るく、少し嬉しそうに見えました。
心なしか、ファインダー越しのチトセ君の顔も明るく、少し嬉しそうに見えました。
「ぬい撮りでついた傷を、ぬい撮りで癒やされる」。
なんともおかしな展開ですが、こんな風に心を揺さぶられる幸せな瞬間がある限り、やっぱり私は「ぬい撮り」を絶対にやめられないな、と思うのです。
最後に・・・
声が少し震えていた変な客だった私に、閉店間際まで温かく接客をしてくれた店員さん達には、本当に感謝しかありません。
9月30日に閉店してしまうのが本当に惜しまれる、心からおすすめしたい特別なティールームでの、ちょっと泣いた夜の記録でした。
9月30日に閉店してしまうのが本当に惜しまれる、心からおすすめしたい特別なティールームでの、ちょっと泣いた夜の記録でした。